「激安アジアンエステ」なんぞと呼ばれていた店舗が、目玉であった激安コースをポイと捨ててしまうことが時にある。
 
 
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　良かれ悪かれ慎重を美徳とする日本人には、なかなか出来ない芸当だと思う。
 
　常連には今まで通り激安コースを提供しているケースもあるのだろうが、表向きは激安を売りにしなくなる。激安による客寄せシーズンを終えたと判断したのか、単価が低すぎて割に合わないと方向性を改めたのか、経営者が変わったのか…。その過程は定かでないけれど。
 
　上野『宮廷』も、かような店かもしれない。一頃は激安アジアンエステ愛好ブロガーに取り上げられることが多かった店舗である。僕もかつては激安系との印象をこの店に持っていた。

　上野駅浅草口から数分。エステマンションとして有名なアルベルゴの裏手にあたる路地に、電飾看板が設置されている。
 
　オーソドックスなアジアンエステの名店と、僕は思っていた。しかしながら、個人的には好ましいと感じない「幾つかの店名を使い別けている」店舗でもあった。漢字だけの店名だと、とっつきにくいイメージを持たれるとの考えからなのか。横文字の名前を併用するアジアンエステは少なくない。
 
 
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　ここも『Time』との店名を使い別けているようだ。たしかに、なんとなく横文字のほうがムフフな雰囲気を醸し出す気がしないでもない。って僕みたいな馬鹿がいるから、店主も名前を使い別けたがるのかもしれない。

　エレベーターで5階に上がると、『Time』の手前に『一番整体院』の看板も目に入る。姉妹店らしい。同じ場所に3つの店名。ややこしい。
 
　店先には、ややくたびれたチャイナ服に身を包んだ20代後半から30代前半ぐらいの嬢。空き状況のみ聞いていたので、さきほど電話した旨を伝える。と、受付のソファーに腰かけるよう勧めてくれる。
 
　どうやら、この嬢がそのまま担当らしい。うむ。骨太ぽっちゃりタイプながらニコニコと笑顔は素敵だ。が、「ひょっとしたら20代前半の嬢がいるかも」なんぞと淡い期待を抱いていたので複雑な心境になる。
 
 
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　はなからキャンペーンの「アロマリンパコース100分9,900円」で入ろうと思っていた。そう告げると、「このコースだと泡洗体がないから、こっちのが気持ちいいですよ」と120分13,000円のコースを勧めてくる嬢。
 
　たしかに蒸し暑いこの時期、洗体はとても魅力的だ。が、泡洗体やあかすりの入ったコースはお得ではない。訪問前にHPをチェックし、そう判断していた。
 
　しばらく悩んだものの、結局70分9,800円の「あかすり（洗体）&リンパコース」を選んだ。僕は「こっちのが気持ちいいですよ」作戦に滅法弱いのだ。
 
　自分で選んでおきながらなんだが、これでは上野御徒町エリアでは相場に対し割高な料金だ。正直、面白くない。いっそのこと120分コースのほうが余程お得なのだけれど、初回につき様子を見することにした。良ければ延長しようと。
 

～悪くはないが、良くもない。安くもない。それでも客が入る理由は？～
 
　Ｔ型紙パンツ着用後の施術は、至ってノーマル。健全ながら、色気はゼロではないというオーソドックスな内容。洗体、指圧、オイル、リンパ。
 
　担当嬢は経験が左程ないとのこと。たしかに下手ではないが上手くもない。が、接客態度は献身的で悪くない。会話も弾みリラックス出来た。嬢の年齢ゆえか、はたまた持って生まれた資質なのか、慈悲深い一面も見せてくれたのは有難いところ。
 
 
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　気になるのは設備面だ。
 
　不潔とまでは言わないけれど、擦り切れたタオルなどを見るにクオリティーは低い。古い店舗だから仕方がない面もあろうが、どこか落ち着かないのだ。無論、隣室の声はよく聞こえる安普請である（声から察するに、隣の嬢は若い）。
 
　僕にはこの店の良さが、今一つ掴めなかった。真面目な店。上野では有名な店。駅から近くて便利な店。今回は不在であったママが魅力的な店…。それ以外、この店に何があるというのか。悪くはない、けれど良くもない。激安料金なら見合うかもしれないが…
 
　しかし売れるもの、人気のあるものには必ずや理由があると人は言う。先客もいたし、飛び込み客もいた。電話もなっていた。人気の理由は、果たしてどこにあるのだ。それとも既にピークを越え、坂を下っている店なのだろうか？

 
～帰り際に気づいた、この店の魅力。だが僕は・・・～
 
　担当嬢に店先まで見送られる。僕は屈んで靴を履いた。立ち上がり視線を上げたその時、エレベーターが開く。現れたのは、うら若き女性だ。僕と目が合うと、彼女はニコリと微笑んだ。
 
　か、可愛い・・・
 
　瞬く間に心を奪われた。彼女はこの店のスタッフだろう。僕は驚いた。こんなに若くて素敵な子もいたのか！
 
　彼女の名前を聞きたい。
 
　誰もいなければ、見送りがママなり店長ならば、必ず聞いていた。が、先ほどまで仲良く話していた嬢が隣にいるのだ。僕は迷った。一瞬の間にものすごく迷った。けれども、やはり名前を聞くことは出来なかった。担当嬢と中途半端に仲良くなったことを悔やんでいる自分がいた。僕はひどい人間だ。
 
　若い彼女を見つめていたのは、ほんの数秒のことだと思う。それでも隣にいた嬢は、僕の心の内を十分察したに違いない。
 
　僕はエレベーターに乗り込んだ。嬢と向かい合う。ドアが閉まりはじめると、嬢は微笑みながら手を振った。その笑顔を、僕は忘れることが出来ない。

 
◆ 体験記138 宮廷/Time(上野浅草口)編 [完]
 
※ この体験記は管理人の主観的なものであり体験時の感想には個人差があります。また、同じ店舗でも担当スタッフや選択したコースにより内容が異なるケースもございます。尚、事実無根の批判や誇大な美化表現などは一切しておりません。
 

• 場所/店名：宮廷(上野) ※閉店
• 時間/料金：70分9,800円